証言記録

水俣に学ぶ

私の中では2011年5月から、いわきは水俣に学ぶべきだという思いが常にありました。それは地元学の吉本哲郎さんという人とお会いして、会った途端に「福島は水俣に学ぶべきだ」という話をされたことから始まっています。最初は分からなかったのです。何となく、「ああ、そんなものか」という感じで、自分の中できちんと落とし込むことができなかったのだけれども、時間がたてばたつほど地域の中でいろんな立場の人がいて、物が思うように言えないような状況になっていくということは、まさに水俣と同じだなという感覚を強くしました。そのことがあったので、水俣に私自身は2回行ったし、仲間たちにも行ってもらいました。それから中高生にもグループを組んで行ってもらいましたし、向こうから講師を招いて話をしていただくという機会も何回か設けました。そのことをきっかけに、今後のいわきのまちをどう復興するかではなく、どう新しくつくっていくか、創生していくかというところに目が向いてきたと思います。水俣の「もやい直し」という立場の違いを超えて話し合う場を設けようという試みや、環境に特化したまちづくりの取り込み、「本物をつくる」という姿勢に学んで、私たちは交流サロンをつくったり、オーガニックコットンの事業を行ったりしてきています。 活動の軸足はやっぱり小名浜にありますが、コットンプロジェクトに関してはいわき市全域の15カ所で栽培を行っています。それにプラスして、2013年からはきっと広野、楢葉と広がっていく。農業をやっていた人たちが今いわきに避難してきておられて、地元に戻っていったときに何を栽培するのと考えたら、食用の作物は栽培できないかもれない。でも、土にさわりたい、何か栽培したいといったときに、内部被曝を気にすることなく栽培できる作物としてコットンというは一つの選択肢として私はありだと思っているのです。オーガニックで人手が沢山必要な部分には首都圏からの多くのボランティアの方たちや地域のボランティアの方、そして避難者の方にも加わって頂いて、地域の農業者が耕作を諦めてしまわないように支えられれば、と思って事業を進めています。

 広島も長崎も柏崎もチェルノブイリも、いわきが学ばなければならないものをたくさん持っている地域ではあるのだけれども、でも一番いわき特有の課題みたいなものが非常に似通った形で出ているのが水俣だと思うんです。だから、今回のことは市民が本気になって新しい社会というのをつくり出していくためのとても大きな転換期だと私は捉えています。けれども、そういうふうには捉えずに、今までと同じ流れのところに戻っていこうとする人たちのほうが多くて、それが私にとっては不思議しょうがないんです。でも、それが大きな壁なんだろうなと思っています。

 その壁に向かって私たちが仕掛けられること。その1つめがサロンをつくるということ。2つめがオーガニックコットンの事業なのだと思っています。いわきという地域の中に住む、場所と時間を共有する者たちが、せめて、「ここは住み心地がいい、ここに住んで楽しい」と思えるようなまちになっていくことだが大切なのだと思います。それは私たちが、ザ・ピープルがもともと目指していた、「元気な街には 元気な主張を続け 元気に行動する市民がいる」というスローガンに通じるものです。そういう市民がいて町が構成されているというところに、私たちは戻っていくべきだと思っているのです。そのために動いているのです。

インタビュー日 2012年10月25日
インタビュー証言者 吉田恵美子氏(特定非営利活動法人ザ・ピープル代表/いわき市小名浜地区災害ボランティアセンター代表)
地域 小名浜

詳細情報

対象時期 6か月以上
災害の種類 地震,  津波,  原発事故,  風評被害
関連URL http://onahama-volunteer.jimdo.com/

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